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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2654号 判決 1967年12月21日

控訴人 目黒信用金庫

被控訴人 今村久義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は別紙第一のとおり、被控訴代理人は別紙第二のとおり主張したほか、当事者双方のなした事実上の陳述、証拠の提出、認否は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

一、本件について当裁判所のなす事実の認定およびこれに伴う法律上の判断は、原判決がその理由において判示するところと同一であるから、これを引用する。

二、控訴人が当審においてした主張について一言する。控訴人の引用する大審院判例の解釈は、当裁判所もこれを採らない。しかし民法五〇二条に、「債権者ト共ニ其権利ヲ行フ」とあるのは、控訴人のいうように、債権者が権利を行使する場合に債権者の権利の行使に伴つて求償権を行使しうるだけであると解すべきではなく、債権者と共同しなければ権利を行使しえない趣旨に解するのが相当である。そうとすれば、債権の一部について代位弁済のあつたときは、債権者は、抵当権一部移転の仮登記ないしこれに基づく本登記の請求を拒むことはできないことは明らかといわなければならない。

三、しからば、被控訴人の請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条にのつとり主文のとおり判決する。

(裁判官 三淵乾太郎 三和田大士 園部秀信)

(別紙)

第一、控訴人の主張

一、大審院判例は、債権の一部につき代位弁済をなした者は、その取得した権利が可分である以上、これを行使するため債権者と共同する必要がなく、残存債務につき債権者がその権利の実行をなし得る時期に達したと否とを問わず、その権利を行使することができる(昭和六年四月七日判決)としているが、右判例の解釈は誤つている。

その理由は第一に、いわゆる担保権の不可分性の原則に反することである。担保権は被担保債権全部の弁済あるまで、目的物の全部の上にその効力を及ぼすから債権の一部の弁済があつてもその割合だけ担保権が縮少すると考えるのは余りにも不当である(民法第二九六条、三〇五条、三五〇条、三七二条参照)。抵当権者としては、担保権全額について優先的に弁済をうけられることが自然であつて、民法第五〇二条第一項の規定も右原則にそつて解釈されなければならない。判例のように解釈されるとすれば、本件のような被担保債権の担保として根抵当権を設定する場合は、その他の担保例えば連帯保証人については抵当権の実行をまずして、その弁済をうけてからでなければ、その責任を問いえない(実質的に抵当権を先に実行せよとの抗弁を与える)のと同様のことになり、甚だしく不自然なことになる。

第二に債務者が一部弁済しても、利害関係人が一部弁済しても、債権者にとつてその弁済の効果は何ら異ることがないのに、前者の場合は債権者の持つ担保権に影響なく、後者の場合に担保権を失うことは、弁済者の誰かによつて債権者に不当な損害を蒙らせることになる。

二、従つて、民法第五〇二条第一項の「債権者と共に権利を行う」とは、債権者が権利を行使する場合に債権者の権利の行使に伴つて求償権を行使しうるだけである。即ち、執行裁判所における抵当権の実行後配当に加わるときには、先づ、被担保債権に対して優先的に支払い、後に第二次的に他の債権に優先して支払われるとの意味に解釈されなければならない。一部代位の割合に応じて債権者の有する抵当権の一部を取得しそれによつて抵当権を実行する等代位した権利を単独で行使したりできるものではない。又、従つて一部代位の弁済だけでは求償権に関する登記もなしうる合理的根拠がない。

本件においても、被控訴人及び訴外永桶は債権者の有する抵当権の一部を取得することはなく、従つて、永桶から被控訴人に対してなされた譲渡も、求償権の譲渡たるにとどまり、抵当権の譲渡をなし得るものではない。

三、なお、商法第六六六条(六六二条の誤記とみとめる)第二項は右の実現を明確ならしめている。即ち、損害が第三者の行為によつて生じた場合において保険者が被保険者に対して其の損害額の一部を支払つた場合は、保険者は保険契約者又は被保険者の権利を害せざる範囲内に於てのみ、保険契約者又は被保険者が第三者に対して有する権利を行使できると明文で規定している。

第二、被控訴人の主張

一、控訴人は抵当権の不可分性を第一の理由とし、弁済者が誰であるかによつて債権者の利害に影響があることを以てその第二の理由とする。しかし、抵当権(担保権)の不可分性は絶対的なものではない(共同担保に関する民法第三九二条参照)のみならず、弁済者が誰であるかによつて債権者にとり結果に差異があるということは控訴人のいうとおりではあるが、他人の債務を弁済しなければならない保証人に対し、担保権につき代位の効果を裏付けることは弁済を容易ならしめるのであつて現行民法の体系がこのように構成されているのである。

被控訴人も亦この現行民法第五〇二条によつて万一の場合の抵当権の一部代位保証されているからこそ預金を提供し、且つ、保証人となつているのである。

二、代位者は債権者と同一の立場に立ち独立して代位した権利を行使することができ、且つ、債権者と平等の立場において按分比例額の担保権を主張できるのであつて、このことは衡平の理念からいつても当然である。

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